梅の花が「縁起がいい」と言われる理由とは？日本人が愛した吉祥の象徴

寒さが残る早春、ほかの花に先がけて凛と咲き始める梅。厳しい冬を越えてほころぶその姿は、古くから「忍耐」や「高潔」「優美」などの花言葉を持ち、人々の心に春の希望を運ぶ存在として親しまれてきました。

この記事では、梅が縁起のよい花として大切にされてきた背景を歴史や文化の視点からひも解き、日本人が梅に託してきた願いをご紹介します。

なぜ梅は「縁起がいい」と言われるのか

梅は開花の時期や文様など、さまざまな側面で吉祥の象徴とされてきました。
 

厳しい冬を越えて咲く「忍耐」から希望への象徴

梅が春を告げる花と呼ばれるのは、厳しい寒さを乗り越えて咲くからこそ。一般的な梅の開花は1月下旬〜3月頃とされ、雪が残る地域でもほかの木々が眠る時期にいち早く蕾を膨らませます。

その姿は「忍耐」を象徴し、昔から人々の心を励ましてきました。厳しい時期を耐え抜いた先に優しい花が咲くように、人生の節目も前向きに迎えられるようにという想いが今も梅の花に託されています。

ちなみに、梅の花言葉は「忍耐」のほかにも「高潔」「忠実」「艶やか」「上品」などがあります。

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春を迎える季節の飾りとして親しまれた

梅は冬から春へと季節が移り変わる時期の飾りとして、古くから日本の暮らしに溶け込んでいます。

1月下旬から2月にかけてほころぶ梅は、「春を告げる花」として正月飾りや立春の室礼（しつらい）にも用いられてきました。

縁起物の門松やしめ縄に紅白梅の意匠が添えられることもあり、春を迎える喜びや気品を表します。また、梅のふくよかな香りは空気を和らげ、立春の頃、家の中に春の気配を招く象徴です。

日本の歴史と梅の深い関わり

梅は単なる花ではありません。文学、信仰、芸術などにも深く寄り添い、日本の心を映してきました。
 

飛梅伝説に見る「忠義と愛」の象徴

平安時代、学問の神として知られる菅原道真公が太宰府へ左遷された際、彼を慕う邸の梅が空を飛んで追いかけてきたという「飛梅（とびうめ）伝説」が残されています。

太宰府天満宮に今も残る飛梅は、道真公の忠義と梅の深い愛情を象徴しており、「忠実」という花言葉にも現れています。

この物語をきっかけに、梅は「人の心に寄り添う花」「真心と絆を象徴する花」として広く親しまれるようになりました。特に道真公ゆかりの花として、学問成就や幸運を招く縁起の花として現在も大切にされています。

万葉集に詠まれた春の象徴

「万葉集」には桜よりも多く、百首を超える梅の歌が収められています。奈良時代の人々にとって、春といえば梅。寒い冬を越えて咲く姿に、生命の息吹きや豊かさを感じ取っていたことがうかがえます。

また、大伴旅人が主催した「梅花の宴」のように梅を眺めながら和歌を詠む風景は、季節を慈しみ、自然とともに生きる当時の心の豊かさを象徴しています。まだ色の少ない季節に梅の花と香りは春の訪れを知らせ、人々の心をほころばせてきました。

こうした文化は時代を超えて受け継がれ、今も各地の梅まつりや名園を彩っています。

家紋や文様に込められた吉祥の意味

梅をモチーフにした「梅鉢紋」や「梅花文様」は、気高さ・繁栄・清らかさを象徴し、武家から庶民まで幅広く愛されてきました。特に梅は、厳しい冬にも負けない強さを持つことから、家の繁栄と長続きを願う吉祥の意匠として用いられています。

さらに、松・竹・梅を組み合わせた「松竹梅文様」では、松の不老長寿、竹の節目の正しさ、梅の純真さが合わさり、より格の高い吉祥文様として重宝されてきました。

着物や帯、漆器、陶磁器、和菓子の包み紙など、日常のさまざまな場面に取り入れられ、気品と祝意を伝える存在として親しまれています。

梅に込められた色と意味

白梅は「清らかさ」、紅梅は「華やぎ」

白梅は、「気品」「上品」、紅梅は「優美」「艶やか」といった花言葉を持ち、色合いによってそれぞれ異なる魅力が表れます。白梅は凛とした清楚さをまとい、紅梅は明るく華やかな印象で、古くから人々を惹きつけてきました。

正月飾りや祝いの席では、白と紅を組み合わせることで「調和」や「めでたさ」を示すとされ、特に新春の室礼（しつらい）ではこの組み合わせが縁起の良い色合いとして重んじられています。

澄んだ白梅の気品と紅梅の華やぎが並ぶ姿は、新しい一年の福を招くにふさわしい彩りです。

梅の実には「長寿」と「厄除け」の願いが込められる

古くから梅の木は長命で、冬を越えて実をつける生命力の強さから、「長寿を授ける木」として親しまれてきました。また、梅干しや梅肉は殺菌・保存の力を持ち、食中毒や疲労から身を守る暮らしの薬として重宝されてきた歴史があります。

また、「梅仕事」が夏の風物詩として続いてきたのも、家族の無病息災を願う気持ちが根底にあるからです。手間をかけて仕込んだ梅干しや梅シロップは、季節を越えて家族の体を守るお守りのような存在です。

現代に息づく梅の縁起の楽しみ方

梅の縁起は現代にも息づいています。季節の節目だけでなく、日々の暮らしの工夫の中に梅を取り入れることで、心に小さな余白が生まれます。

●    梅まつりで春を味わう
●    季節の節目に梅の枝を飾る
●    梅の香りで空気と心を整える
●    梅干しや梅酒を仕込んで健康を願う

最近では梅をモチーフにしたインテリアや雑貨、和菓子や紅白梅のデザインなど、取り入れ方もさまざまです。

お気に入りの湯のみや箸置きに梅柄を選んでみたり、庭やベランダに小さな盆梅を飾って季節を感じるのも素敵な楽しみ方ではないでしょうか。

梅とともに過ごす日々に小さな縁起を

厳しい冬の空気の中で、ふとほころぶ梅の花。その姿には厳しい季節を越えて咲く強さと、寄り添うようなやさしさ、そして新しい季節への希望が宿っています。

梅は古くから「春を呼ぶ花」として親しまれ、その佇まいから「忍耐」「高潔」「優美」などの花言葉がつけられてきました。香り高く気品のある佇まいは、見る人の心を静かに励まし、前を向く力をそっと与えてくれます。

梅にまつわる縁起をさりげなく取り入れながら、季節の移ろいを味わってみませんか？